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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)305号 判決

大阪府松原市天美北4丁目7-14

原告

若林善造

訴訟代理人弁理士

江原省吾

白石吉之

大阪市天王寺区城南寺町5番41号

被告

株式会社オーティス

代表者代表取締役

松本晴次

訴訟代理人弁理士

森脇康博

主文

特許庁が平成9年審判第40006号事件について平成9年8月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、考案の名称を「樋吊具」とし、平成8年6月14日に実用新案登録出願、同年10月2日に設定登録された実用新案登録第3032421号考案(以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

被告は、平成9年3月13日に本件考案に係る実用新案登録の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成9年審判第40006号事件として審理した上、同年8月28日に「登録第3032421号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本を同年10月30日に原告に送達した。

2  本件考案の特許請求の範囲

一端部に樋の前面側内壁に形成された係止凹部に係入される係入部を有し、かつ、他端部に樋の背面側に形成された耳部を抱持するための耳抱持部を有するとともに、該耳抱持部に対向して係止片を配置し、また、略中央部に長手方向に沿って長孔を穿設した樋吊具本体と、

一端部に上記樋吊具本体の長孔に沿ってスライド可能に固定させるための孔を穿設し、かつ、他端部に壁面等に取付けるための取付板を取付けた取付具とを具備する樋吊具において、

上記樋吊具本体の長孔および上記取付具の孔にレバー支持体を挿通し、該レバー支持体の下端に受座を設けるとともに、上端部にレバーを回動自在に枢支し、かつ、該レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成したことを特徴とする樋吊具。

(別紙図面1参照)

3  審決の理由

別添審決書「理由」の写のとおりである。以下、実公平3-45466号公報(審決の甲第1号証)を「引用例1」、特開平7-292896号公報(審決の甲第2号証)を「引用例2」という。引用例1については、別紙図面2参照

4  審決の取消事由

審決の理由「(手続の経緯)」のうち、「なお、本件審判請求について、被請求人には、審判請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もない。」との認定、「(対比)」のうち、引用例1記載の考案の「軸部」、「止め具」、「傾斜面」は、それぞれ、本件考案の「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」に相当するとして、引用例1記載の考案と本件考案が「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」の点で一致するとした認定、これを前提として、本件考案が、引用例1及び引用例2記載の考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした認定判断及び「(むすび)」の部分を争い、その余は認める。

審決は、原告が提出した答弁書を看過してされたものであり、かつ、「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」について一致点を誤認したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(答弁書の看過)

本件審判事件について、審判長により、答弁書提出のための期間が「この請求書副本発送の日から60日以内」と指定されたところ、請求書副本発送日は平成9年5月6日であるから、当該指定期間の末日は同年7月7日(月曜日)である。原告は、同日に審判事件答弁書を郵便により提出し、同答弁書は、遅くとも同月9日には特許庁に到達した。

しかるに、審決は、上記答弁書を看過してされたものであるから、この点において違法として取り消されるべきである。

(2)  取消事由2(一致点の誤認)

ア 審決は、引用例1記載の考案の「軸部」、「止め具」、「傾斜面」は、それぞれ、本件考案の「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」に相当すると認定したが、上記一致点の認定は誤りである。

イ 本件考案の明細書及び図面全体の記載に徴すれば、実用新案登録請求の範囲、特に、「上記樋吊具本体の長孔および上記取付具の孔にレバー支持体を挿通し、該レバー支持体の下端に受座を設けるとともに、上端部にレバーを回動自在に枢支し、かつ、該レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成した」の記載より、本件考案のレバー17は、レバー支持体15に対して垂直な枢軸18(枢軸自体は水平に延在する。)を中心として上下方向に回動するものである。

ところが、引用例1記載の考案の止め具は、基盤17aが軸部8の軸心を中心として回転するものである。すなわち、引用例1記載の考案の止め具17は、水平方向に回動させて吊り具本体2と連結杆4を締め付けたり緩めたりしている。

したがって、引用例1記載の考案の「軸部」、「止め具」、「傾斜面」は、それぞれ、本件考案の「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」に相当するものではない。被告も、本件審判請求書において、「本件考案では、構成要件cにおいて、レバー支持体の上端にレバーを枢支し、該レバー下端部にカムを形成してレバーを縦方向(起伏方向)に操作するようにしているのに対し、甲第1考案(判決注・引用例1記載の考案を指す。)では構成c’において、軸部の上端に横方向(水平方向)に回動するようにカム円盤形の止め具を設けている点で、両者は相違している。」(4頁14行ないし19行)として、本件考案と引用例1記載の考案が相違しているとの認識を示している。

ウ 広辞苑第3版では、「レバー」とは、「梃子(てこ)、槓杆(こうかん)」と定義され、「てこ(梃子・梃)」の項には、「〈1〉重いものを手でこじ上げるのに用いる棒。固定点を通る軸のまわりに自由に回転し得る棒。槓杆(こうかん)」、「こうかん(槓桿・槓杆)」の項には、「〈1〉定点を通る軸を中心に自由に回転しうる棒。ある点に力を加えて、他の点における力と釣合いをとる装置。梃子(てこ)」と記載されており、レバーとは、棒状のものである。また、本件考案における「レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成し」中の「レバーの先端部」とは、レバーが棒状のものであって初めて成り立つものである。

ところが、引用例1記載の考案の止め具17あるいはその基盤17aは棒状のものではなく、その先端部もないから、これを「レバー」と解することはできない。

エ 引用例1記載の考案の「軸部」、「止め具」、「傾斜面」と本件考案の「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」の上記相違により、引用例1記載の考案と本件考案とは、以下の〈1〉ないし〈3〉の点で作用効果が異なる。

〈1〉 引用例1記載の考案の止め具17は、水平方向の回転力で上下方向の締付力を発生させているので、水平方向への回転力を上下方向に転換する際に力のロスが生じ、その分だけ余分な回転力を要求される。これに対して、本件考案のレバー17は、上下方向の回転力で上下方向の締付力を発生させており、回転力を直接締付力に変換することができ、余分な回転力を必要としない。

〈2〉 引用例1記載の考案の止め具17は、軸部8に対して回転可能であるため、回しすぎないように操作しなければならないのに対して、本件考案のレバー17は、レバー支持体15に対して上下方向に180°しか回動しないようになっており、倒したり、跳ね上げたりするだけでよく操作が容易である。

〈3〉 引用例1記載の考案の止め具17は、連結杆4の共回りを防止する必要がある。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4のうち、(1)の事実は不知、(2)は争う。

2  被告の主張

原告は、本件考案のレバー17は、レバー支持体15に対して垂直な枢軸18を中心として上下方向に回動するとして、この点が本件考案の構成上の要件の一つであるかのごとく主張するが、このような構成は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲にも、考案の詳細な説明にも記載されていない。

本件考案の「(レバー支持体の)上端部にレバーを回動自在に枢支し」、「該レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成した」という2つの構成が、引用例1にそのまま記載されているわけではない。しかし、引用例1の「軸部8の上端部につまみ17cを設けた止め具17を回動自在に枢支した」点と、「該止め具の下面部に抜け止め部8aとの間隔を広狭させる傾斜面(カム部)17bを形成した」点は、本件考案と同様に、吊り具(樋吊具)本体を連結具(取付具)に対してスライドさせる場合には、ワンタッチに着脱することができ、蝶ナットを締め緩めする従来のものに比べて優れた作業性を得ることができるという、作業性の大幅向上を最的としたものであることは明らかである。一方、引用例2には、発明の目的として、軒樋の施工時における高所での作業時間を短くすることが記載され、実施例として、縦レバー62を縦(上下)方向に回転させて倒すと連結杆2がワンタッチで固定されること等が記載されている。したがって、本件考案の構成は、引用例1及び引用例2記載の考案から極めて容易に推考しうることである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

第2  審決の取消事由について判断する。

1  取消事由1について

(1)  甲第5ないし第7号証によれば、本件審判事件について、審判長は、答弁書提出のための期間を、本件審判請求書副本発送の日から60日以内と指定したこと、上記請求書副本発送の日は平成9年5月6日であること、原告は、同年7月7日に本件審判事件の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を同日付の通信日付印が押された郵便により提出し、本件答弁書は同月9日に特許庁に到達したことが認められる。そうすると、同月5日は土曜日、翌6日は日曜日であるため、答弁書提出のための期間の末日は、同年7月7日であるから(実用新案法2条の5第1項、特許法3条、行政機関の休日に関する法律1条1項1号)、同日に郵便により提出された本件答弁書は、上記期間内に特許庁に到達したものとみなすべきである(実用新案法2条の5第2項、特許法19条)。

一方、審決が本件答弁書を看過してされたものであることは、審決の理由の「(手続の経緯)」のなお書きの記載により明らかである。

ところで、実用新案法39条1項は、審判長は、審判の請求があったときは、請求書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して、答弁書を提出する機会を与えなければならない旨規定しているが、上記の趣旨は、被請求人に対して請求書の内容を開示して、これに対する意見の陳述や証拠の提出等防御の機会を与えるとともに、審判に誤りのないことを期することにあるものと解される。そうすると、同条項は、単に答弁書の提出の機会を与えればよいというのではなく、答弁書が提出された場合には、これを検討した上で審判がされることを当然の前提としているものというべきであるから、本件答弁書を看過してされた審決は、同条項の趣旨に違反するものといわざるを得ない。

(2)  甲第6号証によれば、本件答弁書には、「甲第1号証(判決注・引用例1を指す。)の止め具17は、本件考案の構成要件であるレバー17とはその具体的構成が異なる。即ち、甲第1号証の止め具17は、水平方向に回動させて吊り具本体2と連結杆4を締め付けたり、緩めたりしているのに対し、本件考案のレバー17は、上下方向に回動させて樋吊具本体1と取付具9を締め付けたり、緩めたりしている点で、両者は相違している。」(2頁下から5行ないし末行)、「甲第1号証の止め具17は・・・基盤17aの下面に傾斜面17bを形成しているのに対し、本件考案のレバー17は、・・・先端下方周縁部に枢軸18からの長さが異なる円弧状のカム17aを形成してある。」(3頁6行ないし9行)等、本訴における取消事由2とほぼ同趣旨の主張が記載されていたことが認められる。そうすると、他に特段の事情のない本件においては、審決が本件答弁書を看過したことは、実用新案法39条1項の趣旨に違反するものであって、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわざるを得ない(ちなみに、甲第8号証によれば、被告も、本件審判請求書において、「本件考案では、構成要件cにおいて、レバー支持体の上端にレバーを枢支し、該レバー下端部にカムを形成してレバーを縦方向(起伏方向)に操作するようにしているのに対し、甲第1考案(判決注・引用例1記載の考案を指す。)では構成c’において、軸部の上端に横方向(水平方向)に回動するようにカム円盤形の止め具を設けている点で、両者は相違している。」(4頁14行ないし19行)として、本件考案と引用例1記載の考案が、取消事由2の点に関して、一致しているか否かに問題があるとの認識を示していることが認められるところである。)。

(3)  なお、被告は、引用例2には、発明の目的として、軒樋の施工時における高所での作業時間を短くすることが記載され、実施例として、縦レバー62を縦(上下)方向に回転させて倒すと連結杆2がワンタッチで固定されること等が記載されているから、本件考案の構成は、引用例1及び引用例2記載の考案から極めて容易に推考しうることであると主張するけれども、引用例2記載の考案の縦レバー62を引用例1記載の考案に適用することは、審決の認定判断していない事項であり、しかも、甲第6号証によれば、原告は、本件答弁書において、この点についても具体的に反論していることが認められるから、被告の上記主張は、審決が本件答弁書を看過してされた違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるとの前記認定判断を左右するに足りるものではない。

また、乙第2号証によれば、特許庁長官は、平成9年2月24日、本件考案は、実願昭和60-164383号(実開昭62-73031号)のマイクロフィルム及び実願昭56-187414号(実開昭58-90921号)のマイクロフィルムの記載からみて、進歩性を欠如するものと判断されるおそれがあるとの実用新案技術評価をしたことが認められるところ、上記マイクロフィルムのうち、前者は引用例1のマイクロフィルムであるが、後者は引用例2のマイクロフィルムではないから、上記評価は、以上の認定判断を左右するに足りるものではない。

2  以上のとおりであるから、本件答弁書を看過してされた審決は、実用新案法39条1項の趣旨に違反したものであって、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。したがって、審決は、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

第4  よって、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成10年10月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面1

〈省略〉

【符号の説明】

1 樋吊具本体

2 樋

5 長孔

7 係止片

9 取付具

10 孔

15 レバー支持体

16 受座

17 レバー

17a レバーのカム部

別紙図面2

〈省略〉

図面の簡単な説明

第1図は本考案の一実施例の断面図、第2図は同上の取り付け板部の斜視図、第3図は同上の止め具の正面図、第4図は同上の軒樋吊り具の取り付け状態の概略平面図であつて、1は軒樋、2は吊り具本体、3は取り付け板、4は連桔杆、8は軸部、15は長孔、17は止め具である.

理由

(手続の経緯)

本件実用新案登録は、平成8年6月14日に出願され、平成8年10月2日に実用新案登録第3032421号として設定の登録がなされたものであり、これに対して、株式会社オーティスが、平成9年3月13日に無効審判を請求したものである。

なお、本件審判請求について、被請求人には、審判請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もない。

(本件考案の要旨)

本件実用新案登録の考案(以下、本件考案という。)の要旨は、登録明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「一端部に樋の前面側内壁に形成された係止凹部に係入される係入部を有し、かつ、他端部に樋の背面側に形成された耳部を抱持するための耳抱持部を有するとともに、該耳保持部に対向して係止片を配置し、また、略中央部に長手方向に沿って長孔を穿設した樋吊具本体と、

一端部に上記樋吊具本体の長孔に沿ってスライド可能に固定させるための孔を穿設し、かつ、他端部に壁面等に取付けるための取付板を取付けた取付具とを具備する樋吊具において、

上記樋吊具本体の長孔および上記取付具の孔にレバー支持体を挿通し、該レバー支持体の下端に受座を設けるとともに、上端部にレバーを回動自在に枢支し、かつ、該レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成したことを特徴とする樋吊具。」

(請求人の主張)

請求人・株式会社オーティスは、

実公平3-45466号公報(甲第1号証)、

特開平7-292896号公報(甲第2号証)、

特開平7-189443号公報(甲第3号証)を提示して、本件考案の登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第2号に該当し、無効とされるべき旨、主張している。

(甲第1号証及び甲第2号証)

甲第1号証には、「軒樋を吊る吊り具本体と、建物の軒先に取り付ける取り付け板と、吊り具本体と取り付け板とを連結する連結杆とよりなり、連結杆の先端部に連結杆の長手方向に長い長孔を設け、長孔に挿通した軸部の一端の抜け止め部を吊り具本体に係止すると共に軸部の他端の抜け止め部と連結杆との間に長孔の軸部に対する摺動を止め得る止め具を設け、該止め具を軸部に回転自在に装着した基盤が軸部側が薄く軸部から離れるほど厚くなるように下面を傾斜面とすると共に基盤の上面につまみを設けて基盤の厚さの厚い部分が連結杆上に位置した状態で長孔の軸部に対する摺動を止め且つ基盤の厚さの厚い部分が連結杆の側方に突出した状態で長孔の軸部に対する摺動を可能とするように構成し、連結杆の基端を取り付け板に回転自在に取着して成る軒樋吊り具。」(実用新案登録請求の範囲参照)が記載されている。

また、甲第2号証には、「軒樋の前端と後端に連架してこの軒樋を支持する吊り金具本体(1)、この吊り金具本体(1)を先端部(21)で連結して軒樋を建物の軒先に取り付け、末端部(22)を建物の軒先に固定される連結杆(2)からなる軒樋吊り金具であって、上記吊り金具本体(1)の中央部に形成された長手方向に長い長孔(4)と、上記連結杆(2)の先端部(21)に形成された、上記長孔(4)と連通する連結孔(5)と、上記長孔(4)と上記連結孔(5)とに貫通する連結金具(8)とからなり、上記吊り金具本体(1)を上記連結杆(2)に摺動自在に連結する軒樋吊り金具であって、上記連結金具(8)が、上記長孔(4)の下方から上記連結孔(5)の上方に貫通する鉛直片(70)の頂端に形成された係合フック(73)と、上記吊り金具本体(1)の下面の上記長孔(4)の周辺部に先端が突き当たって上記吊り金具本体(1)の下面を押し返す、弾性力を付勢する板バネ(71)とを備えた方被係止金具(7)、及び上記係合フック(73)と係合する水平平板状の係止片(63)と、この係止片(63)から鉛直に立ち上がった縦レバー(62)と、この係止片(63)から水平に突き出た横レバー(65)とからなる係止金具(6)から構成され、上記縦レバー(62)を縦回転させて倒すと上記係止片(63)が上記係合フック(73)を持ち上げて、上記連結杆(2)に上記吊り金具本体(1)が挟持されることを特徴とする軒樋吊り金具。」(特許請求の範囲請求項1参照)が記載されている。

(対比)

ここで、本件考案と、甲第1号証に記載の考案とを比較すると、甲第1号証記載のものにおける、「軒樋」、「吊り具本体」、「取り付け板」、「連結杆」、「軸部」、「止め具」、「傾斜面」は、それぞれ、本件考案の「樋」、「樋吊具本体」、「取付板」、「取付具」、「レバー支持体」、「レバー」、「カム部」に相当するから、本件考案と甲第1号証記載のものとは、「一端部に樋の前面側内壁に形成された係止凹部に係入される係入部を有し、かつ、他端部に樋の背面側に形成された耳部を抱持するための耳抱持部を有するとともに、該耳保持部に対向して係止片を配置し、また、略中央部に孔を穿設した樋吊具本体と、

一端部に上記樋吊具本体の孔に沿ってスライド可能に固定させるための孔を穿設し、かつ、他端部に壁面等に取付けるための取付板を取付けた取付具とを具備する樋吊具において、

上記樋吊具本体の孔および上記取付具の孔にレバー支持体を挿通し、該レバー支持体の下端に受座を設けるとともに、上端部にレバーを回動自在に枢支し、かつ、該レバーの先端部下方側の周縁部にレバー支持体の受座との間隔を広狭させるカム部を形成したことを特徴とする樋吊具。」で一致し、次の2点で相違する。

相違点:

(1) 本件考案においては、樋吊具本体に長孔が穿設されているのに対して、甲第1号証記載のものにおいては、取付具(連結杆)に長孔が穿設されている点。

(2) 本件考案においては、取付具には、壁面等に取付けるための取付板が取付けられているのに対して、甲第1号証記載のものにおいては、取付具(連結杆)の基端は取付板に回転自在に取着されている点。

(当審の判断)

まず、相違点(1)について検討すると、甲第2号証には、樋吊具本体(吊り金具本体1)に長孔(4)を穿設し、取付具(連結杆2)に孔(連結孔5)を穿設した構成が開示されているように、樋吊具本体と取付具とのどちらに長孔を設けるかは当業者が適宜変更できる設計的事項である。

また、相違点(2)については、取付具が取付板に対して回転自在か、それとも固定されているかは、設計上の微差にすぎない。

したがって、本件考案は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された内容に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

(むすび)

以上のとおり、本件考案の登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項の規定により無効にすべきものである。

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